2018/01/21 09:41 午後

パトロネージュのお話、その2。

  • 2017/12/09 09:14 午後
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さて!先日のゲームマーケットにて無事発売させていただきました「パトロネージュ」のお話、続きを書いてまいりたいと思います。

ゲームマーケット2017春の現場で、山田さんから直接「直せます」というご回答をいただけました。
これを受けて私は「このゲームに着手せねばならないな」と決意するに至りました。
せねばならないな、というのは…、前提として、このゲームの出版が難しいということは明らかでした。

http://www.b2fgames.com/article.php?s...9211055248

先日のババンクのお話のその2辺りで、私がゲームを出版する際の判断方法について、ご紹介したことがあったかと思います。
個々の項目、細部は異なりますが、これはオリジナルゲームの出版でも同様の方法で考えます。
そこに当てはめてみると、パトロネージュというゲームが「一筋縄では商業的な勝算が見出せない」ゲームである、
という観測が出るまでには、そう時間を要しませんでした。

何と言ってもネックとなるのは「『ルネサンス』というテーマ」と「カードの枚数・種類の多さ」
そして「このゲームがもたらす面白さ、楽しさの質」の掛け合わせによる難しさでした。
この掛け合わせこそが(実の所)このゲームを傑作たらしめていると私たちは感じたわけですが、
それは、間違いなく「見過ごされ易い」タイプの作品性でした。

まず「ルネサンス」というテーマについてですが、これはボードゲームとしてスタンダードである一方、
「このテーマだったら絶対買う」という支持層が広がっている類のものではありません。
どちらかというと「ありふれている」という印象を与えてしまいかねない。
一方で、しっかりとした考証が求められ「適当に取り扱うと怪我をする」テーマであることも事実です。
つまり、有体に言えば「損の多い」テーマ設定です。

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これは枯山水にも一定は言えたことなわけですが、
枯山水については作者ご本人のテーマへの飽くなき掘り下げからゲームデザインが出発しており、
またその結果できあがったゲームの作品性はプレイヤーに好奇心を喚起させるもので、
その点で自分はあまり仕事をする必要がありませんでした。
(テーマが同時に、作品に大きな力を与える武器となっていたわけです)
だから枯山水においては私たちは「作者の理想に近づける」という仕事さえすれば良かったのです。
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商業ベースではここで「テーマの総入れ替え」といった大手術が敢行されることも、
ありえはするわけですが…、それはまた大きなリスクを伴う仕事であり、また東京ドイツゲーム賞入賞作品の出版における、
自分達が考えるマナーとも異なります。
また作者の山田大夏さん、そしてそのゲーム作りをサポートする皆さんとしても、
水準以上にしっかりとルネサンスというテーマに向き合われていて、東京ドイツゲーム賞に応募されてきた自作サンプルについても、
(そのまま製品のコンバートし難い部分もありはしたものの)整えてこられていました。

自分の中で、「さて、どうする?」という自問した結果、まず「ママダさんにお願いするのは、決まりだな…」
というのはすぐ固まってきました。…ほぼ毎回そうじゃないか、というお話はあるわけですが、
今回に関しては、是非も無くママダさんのお力が必要でした。

パトロネージュのカードは、「芸術作品のカード」と「芸術家のカード」を中心とし、150枚を超える分量を必要としました。
枚数が多いカードというと真っ先に「ドミニオン」が思い浮かびますが、ドミニオンが同種のカードを多数収録しているのに対し、
パトロネージュは一枚限りのカードは多くあり、計100種類以上の絵柄を必要とします。これがシンプルに途方も無い。
この絵柄を担当するにあたっては、「クオリティ」と「統一性」と「画風の幅」、そして「ゲーム内容への理解」を同時に伴わせ、
「作業が早く、止まらず、安定していて」、そして「変更に柔軟」なイラストレーターでなければならない…。

…書いていて改めて滅茶苦茶な話だと思います(笑)。
自分の知る限り該当する方は、ママダユースケさんしかいませんでした…、というより、
ママダさんという選択肢が無ければパトロネージュの出版は到底叶わなかったわけです。
単にイラストの腕というだけでなく、ボードゲーム自体への造詣、そして美術大学のご出身ということから来る美術への造詣という面で言っても、
ママダさんしかいないし、ママダさんならあるいは…、という、すがるような気持ちで依頼させていただきました。

加えて、自分はもう一人の方のことを思い出していました。それが、今回美術監修をご担当頂いた山中麻未さんです。
山中さんは(お知り合いということではなかったのですが)ママダさんと同じ大学のご出身で、まだ在学されていた数年前、
数回に渡ってB2Fの店舗に来店されたことがありました。
その度に数時間にわたって、私吉田、そして西山とボードゲームの話をしたのです。

山中さんは大学で芸術文化学科に在籍されていて、「一般社会への美術の普及」といったことを研究されていました。
それに伴い「卒業制作において美術を普及させる狙いを持ったボードゲームを制作したい」と考えておられました。
こういう出来心めいた話自体は、ゲーム屋をやっていると日常的に耳にしてしまうので、
私も西山も「簡単じゃないですよ。止めておかれた方が良い」という現実的かつ紋切り型な助言をしました。しかし、存外に山中さんは本気のようでした。
本気なのならこちらも本気で話さざるを得ない、…ということで、自分も(商売等々とまったく関係なく)山中さんの思いをとことん聞き、
思いつく限りの助言をし、言うべきところはとことん苦言を呈しました。
最近ボードゲームを知ったばかりの方が、大学での学問を修めたという証明に値するプレイアブルなゲームを作り、
それがまた美術の普及にも何らかの意味を持つ…、というハードルの高さに「無茶だな…」という感想を得ると同時に、
まだボードゲームが現在程には国内普及が好転していなかった段階で、ふとボードゲームの魅力に触れ、
自分の学問と本気で関連付けようという若い方がいる、という事実には、大きな嬉しさを感じたことを覚えています。

話すべきことは話した後、山中さんが店舗に姿を見せることは無くなりました。
後はあの方次第だな、と思い、自分達は仕事に戻っていきました。
会社の浮沈を賭けたボードゲーム制作に追われる日々でしたから、それ以上思い出すこともありませんでした。
そしてしばらく時が経った後、Twitter経由で以下のゲームのことを知りました。

http://asamiy024.tumblr.com/post/110263428782/

「ヴォルプスヴェーデ村と4人の芸術家たち:1894 - 1937」。
美術大学の卒業制作でボードゲームを制作した人がいたらしい、と言って、ボードゲーマーたちの間で「未知のゲーム」として噂になっていました。

自分は良い意味で、小さな驚きを感じました。「やったのか」。「作ってのけて、それで卒業したのか」と。
山中さんと話していた時、正直やり遂げるのは難しいのではないかな…、と感じていました。
別に山中さんが特別何か問題があったということではなく、それ以前に、意味のあるボードゲームを作るのは難しいからです。
それを大学の教授たちに評価されるものとして見せるというのは、難しかろうと。
そのゲームが面白いかどうかとか、それは自分にとってあまり興味の無いことでした。
それが美術の普及に役立つかどうかも、正直私たちにはそんなに重要ではない。
自分達にとっては、ゲームはあくまで楽しむもの、面白いものなので。

ただ、真剣に美術とボードゲームを結び付けた人がいたんだな。
その時自分は山中さんのことを思い出し、しっかりと憶えました。
そしてその後彼女がゲームに関わる仕事に就かれたこと、ボードゲームに携わる活動をされていることを噂に聞いて、思ったのです。

美術に関わるゲームとか、将来あるかもしれないしね、と。
第一回東京ドイツゲーム賞、さらには枯山水初版制作の修羅場の只中にありながら、
何時間も、ふと店頭に来たお客さんの話を真剣に聞いて、答えたんだから。
未来に何かしら、新たなゲーム作りの可能性になっても良いだろう…、と。


…そこから2年ほど経ち、…この、パトロネージュというわけです。
このゲームの製品化を実現する上で、「山中さん」という人材のことは、真っ先に自分の頭に上っていました。
山田さんのご意向を聞き、ママダさんに依頼を打診し、そして山中さんにご連絡を差し上げました。

ママダさんも、山中さんも、美術に関わる方であり、同時にボードゲームを愛好していらっしゃる方です。
お二人ともに、まず必要なことは一つだと考えました。
お二人に立川でのミーティングをお願いし、依頼の内容もそこそこに…、
応募時に山田さんからお送りいただいたサンプルで、パトロネージュを3人で遊びました。
お二人は「これは、面白い」と仰いました。…そうでしょうとも。そこは全く、心配していなかった(笑)。

ママダさんと山中さん、お二人のお力をいただいて、私は、このパトロネージュと言うゲームの美術的側面の魅力を高めようと考えました。
ボードゲームを愛好する、私たちにとって最高の芸術家であるママダさんの腕と。
美術を一般に普及させたいという(私達自身は持ってはいない)山中さんの知識と動機に、お力をお借りしようと。

…当然コストは高まる一方だったわけですが(笑)。自分は間違いなく必要だと考えた次第です。
リリースし終えてなお、非常に重要な決断だったと、確信しています。
このパトロネージュというゲームが、そこそこに出て、適当に通り過ぎてしまうゲームでは無く、
意味のあるゲームとして、忘れがたいものとして残る、ボードゲームとして生じるため。
その可能性のため。美しいゲームデザインに、美しい実体を伴わせたいと。

「これで、このゲームに『力』を与えることができるかもしれない」と、ようやく私は考え始めました。

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