2018/07/23 10:46 午後

パトロネージュのお話、その4(最終回)。

  • 2017/12/16 09:45 午後
  • 投稿者:


http://www.newgamesorder.jp/games/patronage

さて、前回は「金貨と木皿」の採用についてのお話をしました。
各方面にとって価値あるものとして打ち出すべく、自分が構想した唯一「行ける」と思ったパトロネージュがこれだったわけです。
自分はこの構想…というより壮大な皮算用をひねり出すのが最大の役割なのですが、
この私の皮算用の領域に大きな幅を与えてくれるのが、実際に製造を取り仕切る西山を始めとしたニューゲームズオーダーの各人の働きと、
安易な方法に頼ることなくここまで引き上げてきた会社の規模、構築してきた販路ということです。

唐突に背中に翼を生やして飛ぶことはできません。人ですから地道に歩いて、ということになります。
2010年に行った「ぼくらの火星」の制作を通して生じた、「ゲームの制作、製造、流通の、質と量両面での向上」というテーマがありました。
3歩進んで2歩下がる、ともすれば3歩下がってしまう日々でしたが、7年で一定の成果を見たことで、
ゲーム作りと販売に際して取れる選択肢の幅がいくらか広がっており、私が今回構想したパトロネージュは、
「自分達の力量をフル活用すればぎりぎり実現できる」と見極めたところにありました。
逆に言うと、製造の選択肢も、予算規模も、ぎりぎりまで使うからこそ相応の力を得るということでもあります。

とりわけ金貨は、自らの手で造形も行う西山の領域です。
自分が金貨と言い出した時点ではその想像は曖昧なものに過ぎなかった為、まず拠り所を作ろう、ということで、
ふたつの方向からの検討を始めました。

ひとつはババンクでも行った、3Dプリンタを用いた形状の検討でした。
直径や厚みはどういったものが使い易いのか。そして「感じが出る」のか。
金属製コインは「重量=コスト」といって差し支えないので、野放図に大きくはできませんが、
金属製にする甲斐の無いものでは駄目ですから、実用性と、満足感と、製造費用のバランスが大切。
加えて「碁石型」も検討対象に入れました。類似している物を考えた時、碁石というのは平面から持ち上げやすく、機能的であるからです。

もうひとつは、「ルネサンス期イタリアで使用されていた実物の参照」でした。
調べてみたところ歴史上のコインのレプリカを販売している海外のショップは散見されたので、
ルネサンス期のフィレンツェの金貨「フィオリーノ金貨」のレプリカを取り寄せて、デザインを検討することにしました。

サイズ検討については20mmと25㎜を作って各種比べたものの、「20㎜は少々小さく、25㎜あれば満足なサイズ」という結論になりました。
厚みについては「4㎜あると持ち上げ易くコインらしい」「碁石型はやはり使いやすいが製造の安定に際しリスクが高まりそう」。
直径25㎜、4㎜厚、というのが一つの答えだったわけですが、これを40枚入れる…と言う話は、計算するまでもなく西山が言いました。
「コスト爆発だわそれ」…そんな気はしていた(笑)。
ちなみに2000セットですから、予定しているコインの製造枚数は8万枚(+不良品対応分)です。

次はこれを、満足感が保たれる範囲で削るフェイズに入りました。
まず直径を1㎜ずつ削った3Dサンプルを作り、「22㎜までは削ろう」という結論を出しました。
加えて…「縁を高めにして、中央部を窪ませることで金属の使用量を減らそうか」ということに。贋金づくりみたいですが(笑)。

ここまで進んだあたりで、海外に注文していたフィオリーノ金貨が到着し、確認した所、西山と、
「うーんそうか」「まあそうだよね」と唸ることになりました。

フィオリーノ金貨…実物は(いやレプリカですが)凄く薄いのです。多分1円玉よりも薄い。
「これを忠実に再現したら…使い難いだろうねえ」「あとあんまり夢無いよねこれ…」
実物(のレプリカ)のフィオリーノ金貨と、22㎜x4㎜厚のサンプルを見比べて、しばらく思案することになりました。

自分が出した結論は「表裏の意匠はフィオリーノ金貨を踏襲」「サイズは22mmx4㎜厚で」ということでした。
それにあたり、これは言わば「マンガ肉」だ、という説明を西山にしました。
リアルなフィオリーノ金貨そのものを再現して入れた、と主張して、使い難かったり、期待通りのイメージをもたらさないゲームを作るより、
それなりの脚色があっても、楽しいゲームということを優先する場面だと考えたのです。
そういう判断を下していいのではないかな、と思えるほどには、自分達はこの金貨のことをずっと考えていました。

サイズが決まり、西山がパテを使った造形に入りました。この作業中、西山が始終「何なんだよ、この裏のトボケ顔のおっさんは!」
とレプリカコインを眺めつつため息をつき、それでも造形を再現すべく粘り強く手を進めていました。
後で調べたところ、これは「聖ヨハネ」だそうで(笑)、多少私共の信仰心もこのコインには宿ったかなと思いました。

作った原型を元にシリコン型を作り、低融点のメタルを鍋で煮て流し込んで…、という、
西山恒例のメタルフィギュアの製造工程に入った後、程なく最初の金属サンプルが出来上がりました。
(こう書いてしまうと2行なのですが、ゲームマーケットでのタチキタプリントの外注仕事が多数あり、西山の度々の泊まり込み作業の結果です)

「おお、素晴らしい!」と自分は称賛したのですが、想定していたアカシアの木皿にその数枚を投げ込んでみた時、
思わず「神よ!」と叫びたい気持ちになりました。その後しばらく、西山の苦心の作を、繰り返し木皿に投げ込んでいました。

音が重い…。

表裏とも素晴らしいレベルで意匠が再現され、直径厚みも注文通り、持ち上げやすく、持った時の重みにも満足感がありました。
ただ、自分が想定していた「ちゃりん」という音が鳴らない。何度放り込んでも、「ごとっ」という音がしていました。

ゲームマーケットの日程も刻一刻と近づいてきていましたから、非常に気は重かったのですが…、西山に、そのことを伝えました。
「あと0.5㎜、薄くしてほしいんだよね…」と。西山は「まじかああああああ」とは言いましたが、すぐに修正にとりかかりました。
ホント頭が下がる思いでしたが、これを直すのが西山の仕事であり、これを直す必要があると伝えるのが私の仕事だということです。

数日後、西山が作り直した3.5㎜厚のコインは…、(理論的な確信があったわけではない0.5㎜減の判断にも関わらず)
「ちゃりん」という音を立てました。…嬉しかったですねえ。

しかしこれは勿論、地獄の一丁目に過ぎないわけです。西山に「ぶっちゃけた話、国内で製造すると1枚いくらかかると思う?」
と聞くと、「40円じゃないかな頑張って」。40円×8万枚は?
「…まずいですなあ」計算して、自分は答えました。「コインだけで、売価5000円の計算だ」

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ここから、海外製造についての調査が始まりまして…、色々すっとばしますが…、あのようなコインが40枚、収まることとなりました。
税抜7500円、税込8100円という価格設定は…、初版枯山水と同じですが、これもまた「何とかここに抑え込んだ」という感想があります。
原価ベースで数百円余分にかかればあっという間に売価が上がりますから、途中では「売価1万円越え」を覚悟しなければならないのかな…、
と考えた瞬間もありますし、「金貨と木皿をプレミアム版専用、もしくは別商品にする」という可能性について考慮もしました。

しかし、何とか当初の構想通り、全てのパトロネージュに「金貨と木皿」を付けたかった。
金貨のことばかり言ってますが、アカシア製のこの木皿も、風合いですとか曲面の具合といった点、また「金貨と共に立てる音」と言った点で、
割り引けるものではありませんでした。

加えて、ゲームマーケットで先行販売分をご購入の方にはお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、中敷きのこともあります。
内容物として金属コインを入れることに決めた時、「箱の中で金貨が飛び散って、カードを痛めたりしたらまずいよね」
という議題は、すぐに生じました。ケイラスの限定版で、金貨が中敷きをぶち破ってるのを発見ししょんぼりした方も、いらっしゃるでしょう。
また、採用した木皿は手工業で作られている製品で大きさにばらつきがあったので、それを吸収できる構造が必要でした。
加えて、このゲームは大量のカードが入っているため、「スリーブを付けたら入るのか」という問題。
中敷きを変形できる機構にして、スリーブを入れた後でも一応収まるように…してみています。
あとカードが入るスペースの上にゲームボードをはめると蓋のようになります。

入れられるかぎりぎりだったため内容物には書いていませんが、山中さんの手による「パトロネージュ講座」は、
親しみやすくルネサンス芸術の知識を与えてくれ、素晴らしいものになっているのではないかと思います。
このゲームに採用されている芸術作品が現在どの美術館に所蔵されている、というような一覧を含め、
枯山水に続き、自分たちなりには「テーマを適当に取り扱わないように…」という形にさせていただきました。

カードの印刷については、日頃より弊社ゲームの国内製造でお世話になっている印刷会社「株式会社SYS」さんにお願いしています。
このゲームの試みにご賛同をいただき、名作カードの金箔加工を含め、予算や納期や、様々な無理を聞いていただきました。

山田さんと、私たちニューゲームズオーダーと、ゲーム作りの考え方について、相違点は少なくはありませんでした。
そのために難しいことはたくさんありました。しかし、共通している大きな一点が、揺ぎ無くあったからこそ、
パトロネージュを出版することができたと思います。

面白いゲームとは、皆さんに楽しんでいただきたいゲームとは、どういうものか?

その一点は、制作に際して一度も揺らぐことなく、共有していたと思います。
そのゲームは、どうすることによって本当に、本当に実現できるのか?プレイヤーの皆様のお力を、喚起できるのか?
その点に関しては、山田さんに譲っていただき、私の考えを通させていただいたことは少なくありません。

「このゲームは本当は面白いんだ」と言いたくはありません。私がそう遠吠えをすることなく、皆さんに面白さをお届けすることができるかどうか?
関係各方面の皆様のご助力をいただき、2017年の我々ニューゲームズオーダーの、全力を投じました。

本場ドイツで認められるかどうかとか、私としてはあまり興味がありません。
テーブルを囲んだ3~4人の皆さんが「俺のボッティチェリ仕事しねええええええええええ!」とか、
「うわああああサンピエトロ流れたああああ」とか、「俺の工房の名も無き画家たちがモナ・リザを描いた…」とか、
「奮起来い!奮起!」とか言いながら、金貨をちゃりんちゃりんと木皿に投げ込んで、ひと時楽しんでいただけるかどうか。
そこにしか興味がありません。その数人にしか、興味が無い。
その数人が最高に楽しんだら、それは最高のボードゲームってことでも良いかなと。

僕らの考える面白いボードゲームというのは、例えばこういうものです。
ということで、明日中にも、弊社サイトでの通信販売を開始予定です。
よろしければパトロネージュ、遊んでみていただければ幸いです。正直…お勧めです!

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